「死んでしまうんじゃないかと思うんです」
そうおっしゃったのは、80代の女性でした。ご主人に付き添われて来院された初診時、表情はとてもこわばっておられました。不整脈に対する強い不安と恐怖。これまでに薬剤アレルギーや麻酔アレルギーを経験され、薬物治療も侵襲的治療(カテーテル治療など)も選べない状況でした。
私たちは治療の選択肢として「認知行動療法」をご提案しました。不整脈という言葉に振り回されるのではなく、「ご自身の体で何が起きているのか」を正しく知ること。漠然とした不安を、具体的な理解と向き合う力に変えることが第一歩です。
まずは、日常の脈を「見える化」することから始めました。ご本人は携帯型心電計をご購入され、次回の外来で記録を見せてくださいました。しかし、決定的なデータは得られませんでした。
「脈が速いと感じたとき」「不安を覚えたとき」「いつもと違うとき」――
そのタイミングで計測し、記録し、振り返ることが重要なのです。
そこで私は、「高額ですが、Apple Watchがとても良いですよ」とお勧めしました。
次の外来。彼女は明るい笑顔でお話くださいました。
「80にもなって使えるか不安だったけど、販売店の人が親切に教えてくれて、使えました」
「不整脈だと思っていたのに、不整脈じゃなかったってわかって、ホッとしました」
「怖くて避けていた坂道を、Apple Watchをつけて歩いてみたら、何も起きなくて。前に進めました」
「いくつになっても、やればできるのですね」
その言葉とともに、彼女の表情は以前とはまるで違っていました。
Apple Watchは、不整脈があるかどうかだけでなく、「不整脈ではない」ということも教えてくれます。これが、不安の正体を明らかにする重要な手がかりになります。
今後もこの方はApple Watchを使って、日常の健康管理を続けていかれる予定です。
「私の外来は卒業です。また困ったときは、いつでも来てくださいね」とお伝えして、診療を終えました。
当院では、Apple Watchをはじめとするウェアラブルデバイスを積極的に診療に取り入れています。これらのデバイスは、客観的なバイタルデータを記録することで、認知行動療法の効果を飛躍的に高めてくれます。
ウェアラブルは、若い方だけのものではありません。
高齢の方にとっても、それは「新しい杖」のように、日常に安心と自信を与えてくれるツールなのです。










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